戦国一挽回した男・仙石権兵衛シリーズ外伝。
次々と通説を覆して新説を繰り出す意欲作ではあるけれど、その一方でやたらと解説が多くて読み辛い。と、文句を言いつつも、こうして外伝シリーズまで読んでしまっているのだから、なんだかんだ言って魅力的なのだ。
この外伝はシリーズの中でも特に示唆に富んだものだった。全5巻――。
のっけから凄い――。
小水河期が生んた「戦国時代」とはなにか
我々日本人はいかにして飢饉に立ち向かったのか――
戦国合戦史上最も有名な合戦を通して解き明かしてゆく
戦国時代が始まったのは、応仁の乱で世の中が乱れて下克上の世の中になってしまったからだと聞いていた。
氷河期で飢饉が頻発したからだという説は始めてだ。
この後三十年で小氷河期は終焉を迎える
それは かの英雄らによって天下統一がなされる日と妙な同調を見せるのである
次に驚くのは今川義元リスペクトっぷり――。
今川義元と言えば油断してしまったために織田信長の奇襲を受けてしまったというイメージが強い。
それでも今川義元は戦国時代という荒波をうまく乗り越えて守護大名から戦国大名へとシフトした稀有な例だったのだ。この外伝では史上初めての戦国大名として評価してもいる。
これを可能としたのは、今川家に伝わる「今川仮名目録」と今川義元がアップデートした「今川仮名目録追加」だ。
つまり「今川仮名目録追加」とは
上は幕府の権威
下は農民からの圧力
そのどちらでもなく
義元自身の力で法を掲げ民を治めるとの
独立宣言にほかならない
今川仮名目録によって安定した主従関係「寄親・寄子制度」が可能となり、大量の兵を動員できるようになった。
飢饉により大量の流民が駿河に押し寄せてきたこともあって、今川義元は尾張へ侵攻することになる(京への上洛ではなかった?)。
一方の織田陣営。信長の父・織田信秀の頃から、対馬神社・対馬商人から「銭」を吸い上げてのし上がっていく。
桶狭間の合戦は「米経済」と「銭経済」とのバトルだったのかもしれない。
「銭」の世の中を上手く回していくには、戦に勝ち続けて経済圏を広げていかなければならない。さもないと銭の不均衡によって「高転び」が起こってしまう。これは「センゴク一統記」でも取り上げられていた。
どうも「センゴク」シリーズを読んでると、織田信長は最初からはっきりとした天下統一のビジョンがあったわけでもなく、銭の流通が破綻しないよう追われるように戦を続けて経済圏を拡大してるように見えた。
外伝冒頭でちらりと紹介されていた今川義元の母も面白そうな人物。
夫が病に臥した際はこの女性が国政を執りし切った
そのうち史上唯一の「女戦国大名」と呼ばれるようになるのである
出家後の名を寿桂尼という
大河ドラマにも脇役でちらちらと出演してるようだし、小説も書かれているようだ(まだ未読)。
この人だけでも主役をはれそう。
外伝シリーズでは特に取り上げられなかったけど、個人的には興味ある人物だ。
すっかり公家化してしまって戦国武将としては無能に近く、桶狭間の合戦の後は家を再興することもなく、文化人として、和歌を詠んだり蹴鞠を蹴ったりして、秀吉や家康の庇護のもと長生きしたらしい。
もちろん馬鹿にされがちだけど、殺し合いの場から逃れて風流や数寄の世界で気楽に生きることが出来た。
現代に当てはめれば、出世に背を向けて趣味の世界をメインにしたライフスタイルを目指したようなもの。案外、悪くないような気がする。
意外だけれど小説の題材にもなっているのだ。
文化人ネットワークを駆使して家康のために働いた黒幕という設定だ。こうなるとだいぶイメージが変わってくる。
こちらは短編集。その中で蹴鞠がフィーチャーされている。成功や出世よりも自分の好きなこと好きな生き方を選んだ男達の連作集だ。
蹴鞠と言うと、サッカーのリフティングみたいなイメージがあるし専門のプロもいるようだけど、蹴鞠となって貴族文化の儀式となると、なるほど荘厳な印象になってしまうのが不思議。
一度、生で見てみたいものだ。京都あたりでやってるのかな?
そして、なんと漫画にもなっていた。ライトノベルが漫画化されたものらしい。氏真が剣の達人という大胆な設定。まだどちらも未読なのでこれから読んでみるつもり――。
天下一蹴-今川氏真無用剣- 2巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
- 作者:蝸牛くも(GA文庫/SBクリエイティブ刊),湯野由之,伊藤悠
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2019/12/25
- メディア: Kindle版
細々とながらライトノベルや漫画の題材にもなっているのだから、今川氏真も暗愚の一言で切り捨てるのはもったいない。
未読だけど、もう1冊小説があった。
をぜひ読んでみたい。
誰か書いてくれないものか?
案外、大河ドラマになるかもしれないぞ――。
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