夢枕獏さんと言えば大人気シリーズを十数本かかえている流行作家なのだが、物語が長くなる傾向ががあって、未完のままになっている連載がほとんどであると言う方だ。
最近は本人も「あとがき」などで、死ぬまで書き続けても終わらないのではないか、あるいは、すべての物語は未完で終わるものなのかもしれない、などと不吉なことを書いていたりして、続きを楽しみにしているファンを不安にさせている。
自分の場合、氏の作品の中では格闘技の小説が好きで、特に「餓狼伝」「新・餓狼 伝」の餓狼伝シリーズが最も好きだ。
作者自ら言うように、ただ、闘うということだけをこれだけ全面に出した小説は世界にも類が無いのではないか、と思っていた。
けれども、本書を読んでからは、氏の格闘技小説の最高傑作は餓狼伝シリーズではなく、この「東天の獅子」ではないか、 と思うようになった。
それだけこの小説は闘いのことだけを筋肉が盛り上がるようにみちみちと書いており、しかも事実を元にしている歴史ものでもあるので、程よく抑制が効いているのである。
もう、すっかりこちらの小説の ファンになってしまった。
読むまでは、氏の作品群の中では地味な存在だと考えていたし、だから、kindle読み放題サ ービスで無料で読めるのかなと思っていたが全くの思い違いだった。
舞台となる明治時代には、魅力的な柔術家や講道館柔道を支える豪傑たちがこれでもかと言うくらいにたくさんいて群雄割拠していたのだ。
講道館柔道の創始者、嘉納治五郎、姿三四郎のモデルになった西郷四郎、大東流合気柔術の武田惣角……。
オリンピック種目にまでなった柔道の創始者である嘉納治五郎と、道場を持たずに放浪しながら伝説の武術「大東流合気柔術」を教えた武田惣角とは柔術・柔道史におけるコインの裏表の関係だったのではあるまいか?
もともと本のシリーズは、作者によれば、4部構成のうちの1部だそうで、この魅力的な物語はまだまだ続きがあるのである。
当初、ぼくの頭の中には次のような四っつの小説の構想があった。
①講道館創成期の物語。
②明治大正における、日本にやってきた外国人格闘家との異種格闘技戦の物語。
③コンデ・コマこと、前田光世の物語(『東天の獅子』)。
④コンデ・コマ以外の、海外へ渡った日本人格闘家の物語。つまり、もともと本書は③を書くつもりではじめられたのだが、前田光世前史を書いているうちにおもしろくなって、それがそのまま①になってしまったというわけなのである。
中でも、海外に武者修行へ出てほぼ無敗だったらしい 前田光世の一代記はぜひ読んでみたいものだ。
どうも餓狼伝シリーズは「新」になってから、秘伝の巻物争奪戦や薬物の使用やコントみたいな会話のじゃれあい(しかも長い)がやたらと多くて、作者が自ら言っていた闘いだけをフィーチャーして書くという作風が薄れていくばかりのような気がしていたのだ。
それだけに「東天の獅子」に出会えた喜びは大きい。
「なんのために戦うのか」「自分が血の小便を流して覚えた技術で飯が食えないこと」などに悩みながら、勝っても負けても丸ごと自分自身であると心から思える格闘家たちが潔い。
それにしても4部構成の残りの3部、ぜひ読みたいなあ。作者のみちみちに詰まっているスケジ ュールではとても無理そうなんだけど、 時代が江戸から明治へと大きく変わり、それにつれて滅びていく者と勃興する新勢力。時代の変わり目を舞台にした小説は面白い。
【プロフィール】
夢とか夢中になれることは特に無いので、嫌いなこと、やりたくないことを回避するライフスタイルと、がんばらないためのライフハック がテーマ。
空いた時間はKindle読み上げで本を聴き(週1~2冊)漫画を読んでいく生活(週50冊)。
・片道1時間の自転車通勤中
・食事は糖質制限中。MEC食&高脂質食。ボトルでプロテイン・EAA&メガビタミン。
・ホットクック 1.0Lで自炊中
・服は制服化済み
・住まいは断捨離してミニマリストへ
・マンガと歴史好き
(特に世界史へ進攻中)
これから、やりたいこと――。
・英語で読み書き
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