久しぶりに小説の魅力をフルコースでたっぷりと味わった気がする――。
物語は死体が見つかるところから始まる。
そして、事件の捜査と並行して、容疑者となる「湿地の少女」カイアの人生が語られる。
ミステリーと「教養小説」の二刀流。
教養小説と言うと堅苦しいイメージになってしまうけれど、そうならないのはカイアの野生たっぷりな魅力と、重層的な物語の組み立てによる。
海に近い湿地で生まれたカイアは、父親から虐待を受けるし、母親や兄姉は次々と家を出てしまい、置き去りにされる。
虐待や放置による不幸な子どもの物語だ。
しかし、カイアは一人きりになっても、湿地と言う大自然のなかでたくましく生き延びる。
まるでトム・ソーヤーかロビンソン・クルーソーのように。
そして、自給自足に近い生活を送れるようになったカイアは、湿地の生物を観察し、スケッチして記録を残すようになる。
読み書きを教えてくれた幼なじみを除き、カイアは学校に行かず、ひとり独学で湿地の生物の研究を進めていく。
やがては研究者が一目置くような本を何冊か出版するようになるのだ。
このあたりは自然や生物についての知識本や「独学のススメ」でも読んでいるようだ。
野生にアカデミックな知性が加わっていく。
思春期を迎えると、カイアは、幼なじみや街のイケメンとつきあうようになる。
このあたりは青春小説。
合間合間に、生物の交尾や習性についてのエピソードが挿入されて、不吉なイメージを暗示させる。
クライマックスは(自分好みの)法廷サスペンス!
ひとりで湿地に暮らす少女への偏見と、科学的な根拠と、どちらが評決を決めるのか、最後までハラハラしてしまう。
これは時代設定が少し昔になっているためで、現代なら無罪でも、この時代ではどうか? と思ってしまうからだ。
エピローグはカイアの静かな晩年が語られる。
そして、カイアの死後、遺留品から分かる真実――。
ラストシーンは人によって賛否が分かれるところ。
Amazon のレビューを読んでみても、「切ない」とか「悲しい」などと感じる人が多かったようだ。
でも自分の場合は別のことを感じた。
むしろ、力強さやたくましさを。
ここには善悪の判断など無用だということを、カイアは知っていた。そこに悪意はなく、あるのはただ拍動する命だけなのだ
作者は七十歳で、これがデビュー作。
次回作も執筆中だと言う。
楽しみだなぁ。
【プロフィール】
年2,500冊の漫画を読み、年に100冊の本を電子書籍読み上げ機能で聞き、片道一時間の自転車通勤を続ける日々――。
のんびり暮らすライフスタイルと、がんばらないためのライフハックがテーマ!
・食事は、たんぱく質ファースト。糖質制限中。MEC食継続中。ボトル飲みでプロテイン&メガビタミン
・電子レンジの時短料理で自炊中
・服は制服化&コンフォート命!
・断捨離後、ミニマリストに
・歴史と地理とニュースの社会科好き!
これから、やりたいこと――。
・英語で読み書き
・古武術介護
・小笠原流礼法