この漫画では江戸時代にどっぷりと浸ることができた。
主人公はお栄。歴史に残る浮世絵師、葛飾北斎の娘だ。
父親と同じように自らも筆をとる。
葛飾北斎は自ら画境老人を名乗るだけあって、ともかく変人。
何度も名前を変え画風を変え引っ越した。
ひたすら絵を描くことに集中して、家の中は散らかり放題、どうしようもなくなったら引っ越す。
その繰り返し。
何とも強烈なオヤジなのだが娘のお栄も負けてはいない。
時には葛飾北斎に代わって絵を代筆する腕も持っている。
特に美人画は得意だったようで、画商からは、父親の名前ではなく、お栄本人の名前で出した方が高く売れるんじゃないかと言われるぐらい。
このやり取りを小耳に挟んだ葛飾北斎のリアクションがまた粋だ。
漫画の神様、手塚治虫も若い漫画家の才能には堂々と嫉妬して、それを隠さなかったと言うし。
この偏屈な親娘だけでも十分面白いけれど、この漫画は江戸時代の雰囲気がこれでもかと伝わってくるところが凄いのだ。
何しろ作者の杉浦日向子さんは、江戸時代の時代考証家としての方が有名かもしれない人。
漫画では浮世絵っぽい絵柄で町人が威勢よく啖呵を切るシーンの100連発。
江戸時代の人間ってつくづくボキャブラリーが豊富だったんだなぁ。
べらぼうめぃ。
一番好きなのはお栄が火事見物をするシーンだ。
コラッ
人の難儀を喜びおって
焼け出された身にもなってみろッ
気の毒千万 痛み入りやす
こちとら回向院の裏に 住んでんだ
焼けたら銭ァとらねえから
ぜひ見に来つくんねェ!
これは火事にあった家の者と、塀の上で火事見物をしている男とのやり取り。
どちらもただの通りすがりの脇役。
ストーリーの本筋とはあまり関係ないひとコマなのだが、そんなコマにさえ、江戸時代の空気が濃厚に漂う。
いやぁ、江戸時代って本当にあった世界なんだろうけど、ちょんまげゆった侍が、いきなり刀で人を斬ったり、自分でハラキリしたり、吉原へ行けばギャルより派手派手な花魁がたばこを吸っていたり、全く別の世界を見ているようだ。
まるで今流行りの異世界転生ものみたい。
今の自分を取り巻く現実世界にうんざりしたら、杉浦日向子さんの江戸ものを読んで、ひと時の現実逃避を楽しみたい。
幸い、図書館には杉浦日向子全集があって、もちろんこの百日紅も収録されている。
全部読みコンプリートするつもり。
【プロフィール】
年2,500冊の漫画を読み、年に100冊の本を電子書籍読み上げ機能で聞き、片道一時間の自転車通勤を続ける日々――。
のんびり暮らすライフスタイルと、がんばらないためのライフハックがテーマ!
・食事は、たんぱく質ファースト。糖質制限中。MEC食継続中。ボトル飲みでプロテイン&メガビタミン
・電子レンジの時短料理で自炊中
・服は制服化&コンフォート命!
・断捨離後、ミニマリストに
・歴史と地理とニュースの社会科好き!