文明開化。一部の人は洋装して、さらにごく一部の人は外国へと飛び立った。そんな新しい時代。 長崎とパリとの二都物語だ――。
主人公は「美世」。名前のとおり「美しい時代」=「ベルエポック」を生きることになる。
江戸時代、長崎が異国への窓口となっていたころ、美世は、日本人を母に、外国人を父にもつ「モモさん」 の道具屋に勤めることになる。
モモに惹かれつつ、美世は外国語や輸入美術品の商売を覚えていく。
彼女はやがてモモを追いかけるようにパリへ赴く。
その時、パリは万博が開かれ、 世界の中心と言っても良い華やぎに満ちていた。
そして日本趣味(ジャポニズム)の波に乗り、モモたちは浮世絵など日本の美術品をパリジャンに紹介していくことになる。
当時、もちろんインターネットなどはなく、 万博が開催されるということは世界中から人やモノが大移動する華やかなものだったようだ。
こうした賑わいの中心にジャポニズムがあり、 日本や日本人が注目されていたというのは何とも誇らしい気分。「クールジャパン」番組で日本大好き外国人がヨイショしているのを聞くよりもずっと。
今まさに時代が変わろうとしていて、 人々もそれを自覚している。明るい明日がやってくることを信じて疑わない。そんな時代のパリのざわめきが雰囲気のある絵から伝わってくる。
作者は長崎丸山の遊女を主人公にした作品も描いているが、エキゾチックな舞台とはとても相性が良いようだ。
美世がパリに滞在したのはわずか二か月の間だったけれど、 その後ニューヨークへ渡り長年大きな仕事に携わるよりも、このパリの二か月間の方が輝いていた。
この二か月間が美世のベルエポックだったのだ。
だからこそ、最終回に過去を振り返って孫に聞かせる年老いた美世の姿が胸にせまる。
そして長崎という土地が避けては通れないあの惨劇へ。衝撃のラストシーンだ。
このラストには賛否こもごもだったようで作者も「あとがき」でコメントを残していた。
ところで、この物語には実在の人物も多く登場していて、作者は各章ごとに簡単なコラムを書いてくれているので歴史好きには二倍楽しめる。
中でも女傑「大浦慶」は坂本龍馬を支援したことでも知られており、この物語でも美世の導き手になるなど重要な役割を果たしている。ちなみに、このお慶を主人公にした番外編もこのシリーズに収録されている。
お慶さんは日本茶の貿易で有名となったが詐欺事件に遭って寂しい晩年を送ったと記憶していた。
ところが、作者のコラムによれば、 借金はほとんど返済して、軍艦を買う? などエネルギッシュな生涯を全うしたようだ。
なんとなく、 救われた気分になった。
ちょうど去年の11月には彼女の生涯について書かれた小説も刊行されていたようで、こちらも読ん でみたい――。